デイサービスで亡くなったおばあちゃん

三輪 誠

90才を越した女性でした。
デイサービスには10年以上通っています。
私が近づくときょとんとした眼差しを投げる方でした。
指で机をトントン叩くのが癖でした。
私が真似してトントン叩くと不思議そうな顔をして、やはりトントントントン叩き続けるのでした。

いよいよ老衰になりました。
食事も職員がやっと介助しています。
顔も小さくなり、トントンする元気もなくなりました。
私が近づくと眼差しを向けるのですがまったく元気がありません。

ある日の午前中、外来にデイサービスから電話が入りました。
「虫の息」とのことです。外来を中断して往診しました。
息はゆっくりで止まりそうでした。
すぐに娘さんをお呼びしました。
娘さんが到着して間もなく、息が止まりました。

後日、娘さんとその日のことについて話す機会がありました。
私は「あの日の朝、デイサービスに出かける前の具合はどうでしたか?」と質問しました。

「普段と変わりませんでした。食事も摂りました」
「でも、出発前に私を見つめる時間が普段より長かった気がします」
「いや、振り返ってみればそんな気がするだけですけど」
そう言って娘さんは懐かしそうに微笑みました。
「でも良かったです。職員の皆さんや先生がいてくれて。自宅では困ってしまいますもの」
娘さんはそう言うと、また微笑みました。

娘さんに愛され続けたおばあさん、死ぬ前に娘の顔を長く見たかったのでしょうか。私はその時のおばあさんの目を想像して胸にくるものがありました。
あの、「トントンきょとん」のつぶらな瞳を想像したのです。
私たちに仕事のやりがいをあらためて教えてくれた方でした。