腐ったパン

「先生、うちのおばあさんは困ります。パンを隠し持っていて、腐らせてしまいます。」

確かにポケットの中に古いパンが入っていました。
「おばあさん、こんなものを食べたらお腹をこわしてしまいますよ。」

取り上げようとすると、恐い顔をして抵抗します。
「先生、夜中に何回も起きて困ります。薬で眠らせてください。」
「ほう、起きて何をするのですか。」
「なんだか炊飯器のスイッチをカチャカチャ押しています。」
「おばあさん、何が心配ですか。」
「子供が学校に遅れる。」

そうです。おばあさんは子育て中なのです。朝、起きたらごはんが炊けてなかった、子供は学校に行かなくてはならない、困った、弁当が作れない、という経験をお持ちのお母さんはいませんか。私は何回か母の困った姿を見ています。
当時の私なら、「早くしてよ、学校に遅れちゃうよ。」とか文句を言ったに違いありません。言われた母は随分と切なかったろうと思います。まさにおばあさんはその状態なのでしょう。
隠し持っていたパンは、ごはんが炊けていなかった時の、緊急用の食事かお弁当なのです。
強い認知症ですが、やさしい母親です。

おばあちゃん、息子さんたちはもう立派に成人しましたよ。ありがとうね。