足指切断

「カチッ」金属的な音がして足の指が切断された。手渡された指は軽くて小さかった。こんな小さなもののために悩んでいたのだと思うと少し腹が立った。

「取れましたか。大丈夫ですか。」恐くて見ていられないといって廊下に避難していたお嫁さんが声をかけた。寝ているおばあさんは無言。傷を縫う持針器の音だけが響いている。その場の誰も指が取れたことを喜ぶことはなかった。むしろ今後の傷の治り具合が気になるのだ。
無理に自宅で手術したことが無駄にならないためにも、きれいに治ってもらわなくては困るのだ。

実は一週間前、寝たきりのおばあさんの足指が一本、壊死におちいった。
もともとロウソクの様に細くなっていた指が、変形し互いに重なり合い、そのうちの一本がついに循環不良になっただけのことなのだ。
「まあ、こんなになっちゃって。」「お義姉さん、これじゃあ入院よ。」小姑がまくしたてる。
「90才すぎると足の指の栄養もわるくなりますよ。管理が悪いせいではありませんよ。」私はしょげかえっているお嫁さんをかばうように説明した。

「入院じゃあお母さんがかわいそうよ。」と続ける小姑に対して
「入院しなくても治りますよ。」私も語気を強くして言い放った。

介護者をかばうあまりに在宅のまま切断術を行うことを宣言してしまったのだ。内科医の私にはできるわけもなく、総合病院の医師にお願いするしかなかった。幸い病院の医師も快く往診・手術を引き受けてくれた。ありがたかった。
しばらくして傷は完全に癒えた。
介護者も入院騒ぎにならなかったことで落ち着きを取り戻した。
介護者を助けてこそ在宅医療がある。

短い指のスライドは看護学校の教材となり、今年も若い学生さんに多くを語るでしょう。