見事な癒し

「あの時はうれしかったよ。あんな事があるもんでこんな山の中でも頑張っていられるよ。」奥さんは寝たきりのご主人を見つめながら続けた。「昔、あんたがみんなに良くしたからだねえ」

あんな事とは、停電の時、地域のみんなに助けられたことです。その家はほんとうに山の中で、町の人からみたら寸又峡に行ったような気がするような場所です。そこに寝たきりのご主人を守って奥さんが一人がんばっています。ある日第2東名の工事の関係で長時間の停電になることになりましたが、ここで困ったことが起きました。実はご主人は常に痰がからみ、吸引器が離せない方なのです。停電の発表を公民館で聞いた奥さんは思わずつぶやきました。「困ったやあ。吸引器が使えないやあ」と。さあ、それからが大騒ぎ。山の中の小さな集落はにわかに活気づく。ともかく発電機だ、ということになり朝早くから男衆が準備に入った。午後からいよいよ停電開始。近所の人が入れ替わり立ち替わり様子を見に来る。なかにはもう一台発電機を持ってきたり、電気コードを用意してきたり、発電機の状態を点検にきたり、なにしろ打ち合わせなしの自然発生的なボランテイアですから重複があるのです。その一人一人にお礼を言いながら停電終了。

介護をしている方々は孤独です。私たちの往診や訪問看護をほんとうに歓迎してくれました。でも地域の人がこんなに心配してくれているとは思わなかったようです。私はひとりぼっちではなかった。停電事件は見事な「癒し」でした。

後日談。その後、自治会で道路公団に「この家は重病人がいるからダンプカーは徐行すべし」と申し入れが行われました。「家の前ではダンプもゆっくり走ってくれるよ。」と奥さんはちょっと得意そうに、嬉しそうに報告してくれました。