助けて欲しい

三輪 誠

美空ひばりの歌に、「人は悲しい、悲しいものですね」というくだりがあります。
その人はなぜか家族の介護を拒否していました。娘さんがつくる食事を食べないのです。そして家では暴力的で、苦虫をかみつぶしたような表情です。
娘さんも、「おじいさんは昔からすぐに手をあげる人」「いつも怒っている人」と言います。
でもデイサービスでは私が笑いかけると嬉しそうに笑う普通のおじいさんです。
運動会での満面の笑みの写真が残っています。
食事も職員が介助すれば全部食べるのです。


一体、家族の何が気に入らないのでしょうか。
私たちにはうかがい知れない何かがあるのでしょう。


家で食事を拒否していると聞いてからしばらくするとさすがに弱ってきました。
週に何回かのデイサービスでの昼食だけでは持ちそうにありません。
そのとき本人がスタッフにいいました。
「助けてください」と。


奥さんをとうに亡くしてはいますが、娘夫婦や孫にかこまれているのです。
確かに認知症ですが、それと介護拒否は関係があるのでしょうか。
関係ないと思います。
認知症で自分が自分でないような苦しい気分になりながら、助けを家族ではなく職員に求めなければならない、本人もさぞや悲しいと思います。
デイサービスのスタッフはデイ利用回数を増やし、食事をとってもらうことに専念しました。お風呂に入れ、レクレーションにも参加してもらいました。おじいさんのわずかな笑顔をみるために最善を尽くしました。
ある朝、スタッフがお迎えに行きましたが行き絶え絶えでお迎えを中止し、翌日亡くなりました。


いまだに、なぜ家族の介護を拒否したのか私には分かりません。
今、目を閉じればおじいさんの笑顔が思い出されます。
孫を連れて診察に来た頃のあの笑顔です。
おじいさん、なぜ家族を拒絶したのですか。
そんなに悲しいことがあったのですか。


後日、娘さんがお礼にいらっしゃいました。
その時の言葉は「三輪医院のデイサービスがなかったら私たちの家族は崩壊していました」です。
「家族も苦しんでいたんだなあ」とあらためて気づかされました。


人は悲しいものです。